
新しい暮らしから逃げずに、望郷の思いをやわらげる
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望郷の思いは、帰るか、考えないようにするかという二つの極を差し出してきます。家族や友人との通話を切ったあと、慣れた料理の写真を見たとき、自分のことばが通じず用事を済ませるだけで疲れたときに、急に強くなることもあります。仕事中は平気でも、誰とも話さない夜や休日になると苦しくなるかもしれません。そんなとき、今後どこで暮らすかをすぐに決める必要はありません。まず、失ったように感じるものと、今いる場所で少しずつ増えているものを分けて見ます。そのために使うのが「二つの場所」のワークです。
紙を一枚用意し、五分のタイマーをかけ、ページを二列に分けます。左に「恋しいもの」、右に「ここで築いているもの」と書いてください。紙がなければ、携帯電話のメモを二つに分けてもかまいません。きれいな文章にする必要はなく、思いついた順に短く書きます。この時間は、帰るべきか残るべきかを判断するためのものではありません。二つの場所に向いている気持ちを、混ぜたまま抱え込まずに並べて見る時間です。途中で胸が詰まったら、「今は答えを決めているのではなく、恋しいものを確認している」と声に出します。
最初の列には、国や町の名前だけでなく、何が恋しいのかを具体的に書きます。慣れた台所のにおい、自分のことばで冗談を言うこと、説明しなくても気持ちが伝わる相手、よく歩いた道、いつもの食事などです。「家族」と書いたなら、その中でも誰の声やどんな時間が恋しいのかを足します。次に、それぞれの横へ、つながりを保つ小さな行動を書きます。たとえば「今日は少し家が恋しい。返事は急がないから、最近の何でもない話を音声で送ってもらえる?」と送る、「今週、少し声を聞きたい。都合のいい時間を教えてもらえる?」と通話を頼む、慣れ親しんだ料理をつくる、といった行動です。
家族が近くにいないこと自体は、失敗ではありません。時差や勤務時間が合わないなら、同時に話すことにこだわらず、音声や短い文章を送り合います。家族と連絡を取れない事情がある場合は、以前の友人や、安心して話せた同僚とのつながりでもかまいません。お金を使えないときは、特別な品を買ったり遠くへ出かけたりせず、家にある材料で味を思い出す、昔の写真を一枚見る、自分のことばで日記を書くなど、今できる形に小さくします。以前の暮らしをそのまま再現しようとせず、その暮らしとの接点を今日の生活に残してください。
二つめの列には、新しい暮らしのうち、今週チャンスを与えてみる部分を書きます。大きな目標ではなく、終わったあとに自分の反応を確かめられる行動を選びます。いつもと違う道を歩く、地域の教室に出る、同僚とコーヒーを飲むなどです。「いつか行く」では流れやすいので、曜日と時間まで決めます。人を誘うなら、「今度、休憩のときにコーヒーを飲みませんか。長くなくて大丈夫です」と送れます。言葉に不安がある場合は、「まだこの言葉に慣れていません。ゆっくり話してもらえますか」や「うまく言えないので、書いて見せてもいいですか」と最初に伝えます。一人暮らしで知り合いが少ないなら、人と親しくなることより、同じ場所へもう一度行くことを行動にしてもかまいません。
最初の試みがうまくいかないこともあります。送ったメッセージに返事が来ない、通話が延期になる、教室で話せない、外出したあとにかえって寂しくなることもあるでしょう。その一回を「ここでは暮らせない」という結論にしないでください。まず、何が難しかったかを一文で書きます。「返事を待つ時間がつらかった」「会話が速くて疲れた」「長く滞在しすぎた」のように、次に変えられる形にします。そのうえで行動を小さくします。返事がなければ「忙しいと思うので、落ち着いたときに一言だけもらえたらうれしい」と送り、参加が重かったなら、次は入口まで行く、短い時間だけいる、事前に質問を文章で用意する、と調整します。
痛みが戻ってきた夜は、「これは望郷の思いであって、指示ではない」と名前をつけます。それから二つの列を開き、今夜できることをそれぞれから一つ選びます。故郷側では音声メッセージを送る、写真を見る、慣れた味をつくる。今の暮らし側では明日の予定を書き込む、同僚への文章を下書きする、外へ出る準備だけしておく。交代勤務なら、一般的な朝や夜に合わせる必要はありません。自分の勤務が終わったあとにできる行動として予定に入れます。HelpClinicでは、この二本立ての流れと使いやすかった言葉を、つらい夜に開ける形で保存しておけます。HelpClinicは治療ではなく、専門家との相談の代わりにもなりません。
眠ること、食べること、仕事へ行くこと、身の回りの用事をすることに影響が出て、それが続いていると気づいたら、専門家に相談する段階です。人との連絡や外出を避ける範囲が広がっている、自分で決めた小さな行動にも取りかかれない、HelpClinicで気持ちを整理しても日常に戻れない、といった変化もそのまま伝えてください。「望郷の思いと孤独感が続き、眠ることと仕事に影響しています。自分で試したことは、友人への連絡と外出の予定です」と言えます。言葉の壁があるなら、「うまく説明できないので、書いたものを見ながら話してもいいですか。短い文で確認してもらえると助かります」と先に伝えます。自分や他人を傷つける考えがあり、自分だけでは行動を止められないと感じるときは、予定した相談日を待たず、その場で利用できる専門的な支援につないでください。






